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東京地方裁判所 昭和30年(行)27号 判決

東京都杉並区高円寺七丁目九百八十一番地

原告

高木勇治

右訴訟代理人弁護士

小沢茂

東京都杉並区阿佐ケ谷一丁目七百二十三番地

被告

杉並税務署長

大八木七郎

右指定代理人法務省訟務局々付検事

河津圭一

広木重喜

同法務事務官

鴫原久男

同大蔵事務官

堺沢良

右当事者間の昭和三〇年(行)第二七号課税処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が原告に対し、昭和二十九年六月三十日にした原告の昭和二十八年度分総所得金額を金二十八万三千七百円とした決定のうち金十六万円を超過する部分はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告は被告に対し、昭和二十八年度分所得税に関し総所得金額を十六万円として確定申告をしたが、被告は昭和二十九年四月三十日付でこれを三十四万七千二百円と更正する旨の決定をしたので、原告は被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は昭和二十九年六月三十日付でその一部を取り消して二十八万三千七百円と訂正し原告に通知したので、原告はこれに対し、更に東京国税局長に対し審査請求をしたが、同年十二月二日付で棄却された。しかしながら、右再調査決定は十六万円を超過する部分につき違法であるので、これが取消を求める。

と述べ、被告の主張に対し、次のとおり述べた。

被告主張事実中

一、のうち、原告が風呂桶の製造、販売、修理を業とする職人であること、被告主張の各帳簿のうち売上帳以外の帳簿が存在しなかつたことは認める。

二、(一)のうち被告が主張するガス風呂販売先は田中淑夫、トーマス、フッセルマンを除き認めるが、その余は争う。

原告が昭和二十八年中に販売したガス風呂は二十二個にすぎない。もつとも、ガス増設又は設置の手続をしたのは二十四回であるが、そのうち、田中淑夫に対してはガス缶のみを販売し、トーマス、フッセルマンに対してはガス設置の手続のみをしたのである。風呂桶屋が客の注文に応じてガス風呂を販売する場合にガス供給設備の増設手続を風呂桶屋でするのが普通であるが、家屋新築の際予めガス風呂を設備するつもりで依頼をうけてガスの新設手続を行つたところ、客の都合で、後日、ガス風呂を買つてもらえない場合もあるのであつて、原告がガス増設又は設置の手続をしたからといつて当然にガス風呂を販売したことにはならない。被告主張の販売額は附属品を加算した額である。販売額、販売日は甲第一号証にすべて記載されている。ただし、同号証中、いずれが誰に対して売り渡したものか明確にすることができない。

被告主張のガス風呂の平均単価は、否認する。平均単価は、一万二千八百五十円である。したがつて、昭和二十八年中に販売したガス風呂二十二個の売上総額は二十八万二千七百円である。

また、被告主張のように昭和二十九年度の比率を適用して昭和二十八年度の収入を算定することは、不合理である。

また、被告が主張する所得標準率四十五パーセントは普通の桶の製造販売についてであつて、呂風桶にとりつけるガス缶又は石炭缶はその業者から購入してとりつけるのであるが、特にガス缶は高価で、ガス風呂の販売価格の半額以上に当るから、ガスもしくは石炭風呂について販売価格の四十五パーセントを販売利益とするのは誤である。

要するに被告は、原告の売上帳が存在しているにかかわらず存在していないものときめこんで、昭和二十八年度の原告がガス風呂の販売個数が二十四個、平均単価が一万八千二百四十円といういずれも架空の数額を作りあげ、これによつて昭和二十八年度の原告のガス風呂の売上金額を作りだし、他方、原告の昭和二十九年中のガス風呂の売上に対する石炭風呂、小物類の売上および修理収入の比率を算出してその比率どおりの売上が昭和二十八年度においてもあつたものと推算してこれが総売上額なるものを作りだし、これに誤つた標準率を適用して所得金額を算出したものであるから、被告の主張する所得金額なるものに合理性がないことは明らかである。

二、(二)は争う。

二、(三)の生計費、普通預金およびベンリー号に関する被告の主張は争う。

もつとも、原告が昭和二十八年末に被告主張の銀行にその主張する額の普通預金があつたことは認めるが、右は年末にした集金をそのまま預けたのであつて、それらは昭和二十八年度の仕入代金の支払として費消されたものである。

被告主張の生計費は、原告の家族の生計費を算出したものとはいえない。ちなみに、生活保護法による生活扶助基準額(昭和二十八年度当時実施されていたもの)は一人当り一箇月六百円ないし千九百五十五円である。

また、被告の主張するベンリー号は、原告所有のものではないし、代金を原告が支払つたこともない。原告の長男が有限会社暁商会から、中古品となつた長男所有のオートバイ一台を同商会に三万円で引きとつてもらつて、買い受けたのである。のみならず、右ベンリー号の購入代金十二万円は原告の事業所得の必要経費中に算入されるべきである。なぜなら、この点につき被告は、所得税法第十一条の二第一項の規定の解釈上原告の長男と生計を一にする親族であり、原告の経営する事業から所得をうけて購入したのであるから必要経費には入らないとしているもののようであるが、右規定は次に述べるように憲法に違反した無効なものであるからである。即ち、昭和二十八年当時原告の長男は二十四歳で、独立の人格者として原告の経営する事業に従事していたのであるから原告が長男に相当の報酬を支払うことは当然であり、この報酬が原告の事業所得の必要経費でないとする理由はない。しかるに原告が従業員として他人を雇いいれていたならその報酬は必要経費として計算されることになる。してみると右規定は旧憲法時代の家の観念または子は親の附属物であるとの旧時代の考方を基礎とするものであつて憲法第十一条、第十三条に違反し、また、生計を一にする親族であるという社会的身分により差別をするものというべく憲法第十四条に違反し、無効である。のみならず、前記規定によれば、もし原告が青色申告をしていたとすれば、右報酬は必要経費に算入されたのに白色申告であつたために必要経費に算入されないことになるから、憲法第十三条および第十四条に違反するものというべく、無効である。従つて、原告主張のようにベンリー号一台の購入代金は全額原告の必要経費として算入されるべきものである。

原告の昭和二十八年における売上高合計は五十五万七千四百十円、仕入高合計は三十五万六千円、必要経費は合計四万千四百十円であるから、所得額は右売上高から仕入高と必要経費とを差し引いた十六万円であつて、その内訳は別紙第三目録記載のとおりである。なお、前記のように、原告の長男が購入したベンリー号一台の購入代金十二万円は必要経費として右額からさらに控除されるべきである。

右のように述べ、立証として甲第一号証、同第二号証の一、二同第三号証を提出し、証人高木治司の証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第十一号証の三のうち郵便官署作成部分を除くその余の部分、同第二十号証の一ないし三、同第二十一号証のうち復命書の部分を除くその余の部分の成立は知らない、乙第十一号証の三のうち郵便官署作成部分、同第二十一号証のうち復命書の部分およびその余の乙号各証の成立(乙第十八号証については原本の存在および成立)は認めると述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として

原告主張事実中原告が被告に対し昭和二十八年度分の所得税に関し、原告主張のような確定申告をしたところ、被告は原告主張のような更正決定をしたが、原告から再調査の請求があつたこと、右請求に対し被告が原告主張の額に訂正して原告に通知したことおよび原告はさらに審査請求をしたが棄却されたことは認めるが、その余の事実は争う。

と述べ、本件課税処分の適法であるゆえんを次のとおり主張した。

一、原告は肩書地において風呂桶の製造販売および修理業を営んでいる者であるところ、原告が昭和二十八年度所得金額として申告した収支計算は、「売上高五五七、四一〇円、仕入高三五六、〇〇〇円、必要経費四一、四一〇円、利益一六〇、〇〇〇円」というのであつたが、被告係官の臨場調査に際して、原告は売上帳は紛失した旨申し立て、仕入帳、経費帳、現金出納帳等はなかつたので、右収支計算は措信することができなかつた。そこで被告としては原告の昭和二十八年分の所得については推計々算をするほかないのである。

二、被告の調査によれば、次のとおり推計される。

(一)  推計の方法

昭和二十九年分の売上について原告が記帳しているもののうちガス風呂の売上に対する石炭風呂および小物類の売上ならびに修理収入の各比率を求め、この比率を昭和二十八年分について調査したガス風呂の売上金額に適用して販売収入および修理収入を算定し、これに所得標準率を適用し、地代を控除して原告の所得を算定した。その計算の要素たるべき数額は以下に述べるとおりである。

1. 昭和二十八年中のガス風呂の売上金額

被告の調査によれば、原告は合計二十四個のガス風呂を販売しその売却先および代金は別紙第一目録記載のとおりである。そしてその販売代金の平均単価は一万八千二百四十円となるから、売上総額は四十三万七千七百六十円である。即ちガス会社出張所においてガス供給設備の新増設につき調査し、これに基き直接当該ガス需要者と面談することによつて原告からガス風呂を購入したことおよび購入価格を確認したのである。ただ、二十四個中五個についてはその購入者の転居等の理由により直接確認することができなかつたので、やむを得ず十九個の売上金合計額(別紙第一目録記載のとおり)から前記一個当りの平均販売価格を算定し、それによつて二十四個の販売価格を算出したのである。

2. 昭和二十九年分(ただし同年一月一日から同年十月十四日まで)の原告が記帳していた額およびガス風呂の売上に対する石炭風呂および小物類の売上ならびに修理収入の比率は次のとおりである。

〈省略〉

3. そこで、昭和二十八年中のガス風呂の売上金額(前記1)に対し、右各比率を乗じて算出すれば、昭和二十八年分の石炭風呂、小物類の売上額および修理収入額につき次の数額を得ることができる。

〈省略〉

4. しかして、昭和二十八年度の所得標準率は、風呂桶は四十五パーセント、修理収入は六十パーセントであるから、これを右3記載の額に乗ずれば、営業利益につき次の数額を得ることができる。

〈省略〉

(二)  よつて右営業利益の合計額から特別経費として他代二千九百七十円を控除すれば昭和二十八年分の原告の総所得額は四十七万五千七百十七円となる。

(三)  しかして、また、いわゆる資産負債増減法によつて計算しても、所得金額は、右とほぼ同額となる。すなわち、その所得の要素たるべき数額は別紙第二目録記載のとおりであつて、それによると原告は昭和二十八年度において少くとも四十七万四千八百八十四円の所得があつたものであるからである。

一、右のように、被告の行つた推計方法は合理的なものであり、その結果算出された所得額は妥当なものであるから、右所得額の範囲内で原告の所得額を二十八万三千七百円とした本件課税処分(再調査決定)には何らの違法原因も存しない。

なお、ベンリー号一台は原告が購入したのであつて、原告の長男が購入したのでないことは、原告の長男が原告の扶養親族

(昭和二十八年度の扶養親族の要件は同年中の所得が三万五千円以下の者である。昭和二十九年法律第五十二号による改正前の所得税法第八条参照)であり、しかも原告とともに桶の製造販売および修理に従事している者であるから、同人に代金十二万円のベンリー号を購入する資力のある余地はないことおよび原告本人の預金口座よりその支払がなされていること(乙第七号証の三参照)から明らかである。

右のように述べ、立証として乙第一号証の一ないし三、同第二号証の一ないし六、同第三号証の一、二、同第四号証の一ないし六、同第五号証の一ないし五、同第六、七号証の各一ないし三、同第八ないし十号証、同第十一号証の一ないし三、同第十二ないし十九号証、同第二十号証の一ないし三、同第二十一号証を提出(ただし、同第十八号証は写をもつて提出)し、証人副島文造、同新井久作の証言を採用し、甲第一号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

一、原告が肩書地において風呂桶の製造、販売、修理業を営む者であること、原告が昭和二十八年度分の所得金額を十六万円として被告に対し確定申告を提出したこと、被告において原告の右確定申告にかかる所得金額を三十四円七千二百円を更正したので、原告は被告に対し再調査の請求をしたところ被告は原告の所得金額を二十八万三千七百円と訂正する旨の決定をしたこと、原告はこれを不服としてさらに東京国税局長に対し審査の請求をしたが昭和二十九年十二月二日付で棄却され、その頃原告に通知があつたことはいずれも当事者間に争がない。そこで、昭和二十八年度における原告の所得はいくらであつたかについて判断する。

二、ところで、原告の所得を計算する基礎となるべき数額は次のとおりであることを認めることができる。

(一)  昭和二十八年中における原告のガス風呂の売上金額

(イ)  昭和二十八年中に原告が別紙第一目録の氏名らん記載の者のうち、田中淑夫およびトーマス・フッセルマンを除くその余の者(伊藤重信とあるのは伊藤信重の誤記と認める)にガス風呂(したがつて合計二十二個)を販売したことは当事者間に争がなく、それら(ただし金額らんに不明とある部分の販売分を除く)の販売価格はそれぞれ金額らん記載のとおりであることは成立に争のない乙第一号証の一ないし三、同第二号証の一ないし六、同第三号証の一、二、同第四号証の一ないし六、同第五号証の一ないし五、同第六号証の一ないし三、同第十二ないし十六号証の各記載及び証人副島文造の証言によつてこれを認めることができる。したがつて、その販売価格合計はガス風呂十九個で三十四万五千七百円であるから一個の平均価格は一万八千百九十四円(一円未満は切り捨てる。以下同じ)である。そして、被告において調査することのできない販売価格は右二十二個中三個にすぎないのであるし、前顕乙第二、五号証の各一と証人副島文造の証言とを総合すれば、右三個の販売先である奥田周男、鈴木旭、石川橘については転居等の理由により調査できなかつた事情を認め得るので、前記平均価格をもつて同人らに対する販売価格であると認めるのが相当であると解するから、結局二十二個のガス風呂の販売価格総計は四十万二百六十八円であることは計算上明らかである。原告は被告主張の販売価格は附属品を加算した額であると主張し、右認定額より低額であるかの如き主張をするが、原告の右主張を認めるに足りる証拠はないし、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。よつて、右認定と異る原告の主張は採用するに由ない。

(ロ)  ところで、原告は原告本人尋問においてガス風呂を販売する際顧客から値引きを求められて安くすることがあり、その額は全体の販売価格の五分ぐらいである旨述べているが、前記認定額がいずれも実販売価格であることは前顕乙号各証の記載から明らかである(伊藤信重、小野尾邦夫、根本政治、生尾次郎については値引をして売つた価格である)から、右供述はガス風呂販売価格総計を前記のように認定する妨げとはならない。

(二)  昭和二十八年中における原告の石炭風呂の売上金額

(イ)  成立に争のない乙第十九号証と証人新井久作の証言、原告本人尋問の結果とを総合すれば、昭和二十八年度におけるガス風呂と石炭風呂の販売個数は大体同数であることおよび同年度における石炭風呂の上製と並製とが大体同数販売され、上製の標準販売価格は一万六千円、並製のそれは七千円であることを認めることができ、これに反する証拠はない。そして、前記認定のようにガス風呂の販売個数が二十二個であるから、右認定の方法により、上製が十一個、並製が十一個の販売価格を算出すると、それぞれ十七万六千円、七万七千円、合計二十五万三千円という額を得る。

(ロ)  ところで原告は原告本人尋問において、石炭風呂を販売する際はガス風呂の場合と同様顧客から値引を求められて安くすることがあり、その額は全体の販売価格の五分ぐらいである旨述べているので、仮りにそのとおりであるとし、かつ右販売個数の全部について値引をしたと仮定すると結局石炭風呂の販売価格は二十四万三百五十円であるということができる。

(三)  昭和二十八年における小物類の販売額と修理収入額

(イ)  成立に争のない乙第十九号証と証人新井久作、同副島文造の証言とを総合すると、東京国税局係官が調査のため昭和二十九年十月二十日原告方を訪れたが昭和二十八年度の所得に関する関係帳簿が見当らなかつたので原告が記帳していた昭和二十九年一月一日から同年十月十四日頃までの帳簿を原告から見せてもらい、その期間における桶の販売、修理収入等がどのような分類になつているかという点について調査し、その際の原告の説明によると右期間における営業実績は昭和二十八年度のそれと比較してあまり差はないことを認めることができる。そこで右期間中におけるガス、石炭風呂の販売額に対する小物類販売額と修理収入との各比率を求め、右比率を前記認定の昭和二十八年中における風呂の売上金額に適用することによつて昭和二十八年中における小物類販売額と修理収入額とを知ることができる。

(ロ)  ところで成立に争のない甲第一号証(ただし昭和二十九年分に関する部分)によれば、昭和二十九年一月一日から同年十月十四日までのガス、石炭風呂(同号証には両者を区別して記載されていないが両者を含むことは明らかである)の販売額合計は二十八万八千二百円、小物類販売額は合計四万四千七百八十円、修理収入は八万四千百五十円であることを認めることができる。これに反する証拠はない。そして、右認定額から得られるガス、石炭風呂販売合計額に対する小物類販売額の比率は一五、五三パーセント強、修理収入額のそれは二九、一九パーセント強である。

(ハ)  ところで、前顕甲第一号証中には昭和二十八年中における売上の記載部分もあるので、それに基き同年一月一日から十二月三十一日までの間における桶の販売額、修理収入額の各割合を計算してみると、次の数額を算出することができる。即ち、右期間中におけるガス、石炭風呂(右記載によれば、両者が区別されていないが両者を含むことは明らかである)の販売額は合計三十七万九千三百円、小物類の販売額は五万三千二百六十円、修理収入額は十万八千二百五十円であるので、右算出額から得られるガス、石炭風呂販売合計額に対する小物類販売額の比率は一四、〇四パーセント強、修理収入額のそれは二八、五九パーセント強である。したがつて、原告が記帳していた昭和二十八年中の売上帳自体から算出される小物類販売額および修理収入額のガスおよび石炭風呂販売額に対する比率は、前記(イ)および(ロ)に記載した認定方法によつて算出されるそれと大差はないことを知ることができる。

(ニ)  そこで、前記(一)および(二)で認定したとおり昭和二十八年中のガスおよび石炭風呂の販売合計額は六十四万六百十八円であるので、これに前記(ロ)の比率を乗ずると昭和二十八年における小物類販売額については九万九千四百八十七円を、また修理収入額については十八万六千九百九十六円を算出することができる。

(四)  そこで以上に述べた方法によつて算出した昭和二十八年における販売額、修理収入額に利益率を乗ずれば、営業利益として次の数額を算出することができる。

(イ)  ガス風呂について

原告はその本人尋問において昭和三十年度における営業利益率は、上製が二割九分、並製は一割七分で右は昭和二十八年度においても変りはなかつた旨および上製と並製とが大体同数の割合で販売された旨述べているので昭和二十八年度におけるガス風呂の利益率は平均二割三分であると認めるのを相当とする。したがつて、営業利益は九万二千六十一円である。

(ロ)  石炭風呂について

原告はその本人尋問において昭和三十年度における営業利益率は上製が三割六分、並製は約二割で右は昭和二十八年度においても変りはなかつた旨および上製と並製とが大体同数の割合で販売された旨述べているので、昭和二十八年度における石炭風呂の利益率は平均二割八分であると認めるのを相当とする。したがつて、営業利益は六万七千二百九十八円である。

(ハ)  小物類について

原告はその本人尋問において、小物類の販売利益率は四割五分である旨述べているので、仮りにそのとおりであるとして計算すれば営業利益は四万四千七百六十九円である。

(ニ)  修理収入について

証人新井久作の証言によれば、原告については、その利益率は収入額の六割であることが認められる。他に右と別異に解すべき有力な証拠はない。したがつて、修理収入による利益は十一万二千百九十七円である。

(ホ)  以上(イ)ないし(ニ)によつて得られた営業利益額を合計すると三十一万六千三百二十五円となる。

(ヘ)  なお、原告はその本人尋問において、ガスおよび石炭風呂の利益率の算出方法として風呂桶一個につきガスまたは石炭缶の原価および売値と桶の原価および売値とに分けて供述しているので、右はいわゆる荒利益率(更に必要経費を控除すべきもの)を意味するものと考えられないでもないが、なお右原告の供述によれば、上製のガス風呂の桶の材料代が一個当り五千円、並製の石炭風呂の桶の材料代は一個当り二千八百二十円(並製に使用する缶だけの売値も上製のそれと同じ二千三百円として、並製石炭風呂の販売価格七千円から差し引けば桶の売値は四千七百円であるところ、桶だけについての利益率はガス風呂のそれと変らないから、その六割が材料代ということができる)であるのに、原告が主張する木材の仕入代合計十二万千六百七十円を全部風呂桶の製造に使用したとしても前記販売した風呂の総個数四十四で除すると一個当りの材料代は二千七百六十五円にすぎない。したがつて、原告の供述するガスおよび石炭風呂の販売による利益率というのは、荒利益率ではなく、被告のいう所得率と同一性質のものであると認めるのを適当とする。

三、よつて、原告の営業利益は三十一万六千三百二十五円であるところ、被告は右営業利益から特別経費として控除すべき地代を原告主張のとおり金一万百円としても昭和二十八年度分の原告の総所得額は三十万六千二百二十五円であるということができる。

なお、前記(三)の(ハ)によつて得られた比率に基いて原告の総所得額を算出してみると、次のとおりである。即ち、ガスおよび石炭風呂販売額六十四万六百十八円に右比率を乗ずると小物類販売額として八万九千九百四十二円、修理収入額として十八万三千百五十二円を算出することができ、前者の利益率は四割五分、後者のそれは六割であること前記認定のとおりであるから、営業利益としてそれぞれ四万四百七十三円、十万九千八百九十一円を算出することができるから、それらと前記(四)の(イ)および(ロ)によつて得られたガスおよび石炭風呂の営業利益とを合計すると三十万九千七百二十三円となるから、地代を原告主張のとおり一万百円としても総所得額は二十九万九千六百二十三円となる。

四、しかして、被告の再調査決定にかかる原告の昭和二十八年度の所得金額は二十八万三千七百円であることは当事者間に争がないところであつて、これは前記算定額よりも低いのであるから、被告の資産増減法による推計に関する主張について判断するまでもなく、本件課税処分が違法なものということはできない。

五、しからば、被告が原告の昭和二十八年度の所得金額を二十八万三千七百円と再調査決定したことは相当であつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 大和勇美 裁判官 秋吉稔弘)

第一目録

〈省略〉

以上

第二目録

〈省略〉

註一、債権者、杉並区阿佐ケ谷二ノ六五六有限会社暁商会

註二、取得時期、昭和二十八年十一月四日、償却率〇、一六六(定額法による)

註三、区民税一、二〇〇円、自転車税五〇〇円、荷車税二〇〇円、所得税二、七六〇円

註四、総理府統計による昭和二十八年度東京都内理論生計費の一月から十二月までの月平均一人当り四、九三四円に、原告の家族数六人を乗じ、十二箇月分を算出した。

第三目録

一、売上高

〈省略〉

二、仕入高

1 ガス缶。石炭缶煙突 二三四、三三〇円

2 木材 一二一、六七〇円

三、必要経費

〈省略〉

以上

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